今回は運動とストレスの関係についてご説明します。
ストレス発散のために運動やスポーツを行うこと自体は、とても健全な行為です。私自身も運動後は高揚感が得られ、気持ちがすっきりします。それに、飲酒や喫煙、パチンコ等によるストレス解消よりも健康に良さそうなイメージもあります。
そこで、ストレスを自覚しているときの身体の状態を、今一度整理していきたいと思います。
脳がストレスを認識すると、太古の記憶(狩猟、飢餓、厳しい天候への対応など)が自律神経を介して身体を緊張モード(交感神経優位)に切り替えていきます。
獣との戦いでは血管が収縮して呼吸が浅くなり筋肉は過緊張に、飢餓への備えとして内蔵(特に消化器系)は機能を制御し、寒さへの備えとして血圧や心拍を上昇させます。現代人は狩猟で命の危険を感じることもなく、食の不安もほとんどないと思いますが、それらの記憶の影響で、何もしていないとふと不安になったり、将来への根拠のない不安で落ち込んだりと、負の感情が心を支配してしまうものです。また、現代人には対人関係によるストレスが大きく、現状への不満や、自己重要感という欲を常に抱えています。そのような様々なストレスが交感神経を優位にし、無意識のうちに身体を緊張モードに切り替えているのです。そしてその状態が続くと、顆粒球(※1)が増大し、ステロイドホルモン(※2)が大量に分泌されるため免疫機能が抑制され、活性酸素(※1)によって身体の細胞が傷つき、血糖値が上昇し、各所に炎症が起こりやすくなります。
これがストレスを自覚している身体の状態です。そして運動も交感神経が発動している状態なので、ストレス時と同様に血管が収縮し、血糖値や血圧が上昇し、活性酸素が発生します。このような状態では、歩行程度でも身体へのダメージが避けられません。ゴルフ中の突然死等がわかりやすい事例だと思います。
自然豊かな環境で気持ちを落ち着かせる、絵画や音楽を楽しむ、太陽を浴びながら深呼吸する、ゆっくりお風呂につかる、美味しいものを食べる、笑う、熟睡するといった行為なら、いずれも副交感神経を優位にして、ダメージを負った身体を回復させてくれます。
運動による高揚感は脳で分泌されるドーパミンという快楽物質によるもので、これまでのコラムで述べてきたようにドーパミンには依存性が強く、刹那的な発散方法と言えます。
もちろん、運動によって得られる高揚感、達成感、笑顔、その間ストレスを忘れられるという現象を否定するつもりはありませんし、私も基本的に運動は嫌いではありません。
ただ、以上の理由から、運動やスポーツはなるべくストレスがない時に行って、身体へのダメージを避けた方がよいという事実を今回のコラムでご紹介しました。
(※1) 顆粒球、活性酸素・・顆粒球は白血球の細胞の一種で、同じく白血球の一種であるリンパ球がウイルスや癌細胞に対して抗体をつくり処理するのに対し、顆粒球は主にウイルスより大きい菌を担当し標的を捉え自爆して処理します。リンパ球は副交感神経発動時に分泌され、顆粒球は交感神経発動時に分泌されることが近年わかっています。この処理を行うときに炎症が発生し、たくさんの酸素供給を必要とするために活性酸素を生み出します。この変性した活性酸素は殺菌作用があると同時に炎症を伴って周辺の細胞を傷つけ、癌をはじめあらゆる病気のときに活性酸素を伴っています。(バックナンバー123 126 128 151 154話参照)
(※2) ステロイドホルモン・・ストレスホルモンとも言われ、ストレスを感じたときに副腎から分泌されるホルモンの総称です。このホルモン分泌によって、体温を鎮め、免疫を抑制し、血糖値を安定させること等で、体内に発生した炎症(内臓器官も含む)を鎮める抗炎症作用が期待できます。ただ、分泌が続くと免疫抑制作用によってリンパ節を萎縮させたり、ステロイドホルモンの一種である糖質コルチコイドが身体を糖化させてしまいます。この糖化により、例えばコレステロールと粘着→変性を起こし悪玉コレステロール値が高くなる原因となったり、リンパ球との糖化で免疫力を落としたり、鉄分との糖化で貧血や冷え性を招いたり、靭帯や関節等との糖化で節々が硬くなる原因となります。また、更に分泌が続くと、ステロイドホルモンそのものが枯渇して炎症にさらされやすい身体になります。ストレスが続いたときと糖質摂取が続いたときに、糖化は起こりやすくなります。
(バックナンバー127話参照)
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