さらに最近は、麻酔を使ったための事故も増えています。
患者さんの苦痛を取ることを優先しようとした結果、麻酔をかけて内視鏡を入れるのです。患者さんの苦痛は少なくなりますが、反面、「痛い」というサインを出すべき時でも何も感じないので、経験の乏しい医者ほど「まだ大丈夫だな」と、内視鏡を押しすぎてしまい、最悪の場合は穿孔してしまう危険性があります。
患者が「痛い」と声を出すのは、医者への貴重なサインです。それ以上押されたら腸が破れてしまうという危険信号を出しているわけです。患者さんが出しているSOSが医者に届かないと、事故が起きます。
内視鏡検査では、たいてい、初心者の医者ほど患者さんに痛みを与えます。
そして患者さんに「痛い、痛い」と言われるので、初心者ほど使用する麻酔薬の量が増えます。
だから、初心者ほど出血や穿孔事故も多くなりますし、さらに恐ろしい麻酔事故さえ招きかねないのです。
一方、ベテランで腕のいい医師ほど患者さんを痛がらせず、しかもスピーディーに検査をすませますから、麻酔を使わないか、患者さんにリラックスしてもらうために、ごく少量使うだけということになります。
麻酔を使う場合、検査が具体的にどのように行われるかというと、まず患者さんに睡眠薬の注射を打って寝てもらいます。内視鏡検査はモニターの画面で腸の状態などを見るため、モニターが見やすくなるように、部屋の照明をやや暗くします。もちろん、暗い中でも患者さんの呼吸状態はきちんとチェックされていますが、初心者の医師だったりすると、内視鏡をうまく挿入することだけに気を取られて、麻酔で眠っている患者さんへの注意が散漫になることがあります。そしてふと気づくと、強すぎる麻酔が効いてしまって呼吸していない患者さんの姿に慌てふためくのです。
麻酔事故は恐ろしいものです。もし、無呼吸の時間が5分以上続いたら、脳は不可逆のダメージを受け、植物状態になってしまいます。
私自身は検査でほとんど麻酔を使いませんが、麻酔の使用を完全に否定はしません。患者さんの心理状態によっては必要なケースもあるからです。
ただし、自分の技術のお粗末さをごまかすために安易に使用していたら、必ず事故が起こります。そういう理由で、大腸内視鏡は難しいのです。
だからこそ、麻酔を使わなくても痛みを与えない新しい挿入法を身につけることは、内視鏡事故の予防のために不可欠なことです。
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