すでに述べたように、私の父は大腸ガンを契機として大きな手術を2度受けたわけですが、国が、もう2年早く大腸ガン検診を導入していたら、あんなに危険な目に遭わなくてすんだかもしれません。
人が病気になるときは、最初はゆっくりしているのですが、大きな玉が坂を転がるように、しだいに加速していくものです。ガンの場合、この傾向はとくに顕著です。
まだ動き始めたばかりの頃に気づいて手を打てば何でもないことなのに、ある程度勢いがつくと、もうどんな名医でも元に戻すことは難しくなります。
大腸ガン検診の導入について当時の厚生省の決断が遅れたのは、50万人と予想された便潜血陽性者の受け入れ施設が用意できないという理由からでした。
「国民に大腸ガンが増えてきているのだが、二次検査の受け入れ施設が少ないから、一次検査を実施しない」という考え方は、本末転倒としか言いようがありません。
その後も大腸ガンに対応できる施設は不足状態が続いているのに、1999年4月には、大腸内視鏡手術の大幅な保険点数切り下げ(30%以上)を行ないました。
大腸内視鏡の技能を身につけることは、残念ながら胃カメラほど簡単ではありません。
きちんとした指導を受けていない医師が大腸内視鏡検査をすると、患者さんの苦痛が大きいばかりか、穿孔事故、出血事故の危険が高まります。
長期的な視野で専門家を育てていかなければならないのに、保険点数を大きく切り下げられたりしては、ますます専門家を育てにくくなります。
「35歳以上の日本人は、全員大腸内視鏡検査を2年に一度受ける」
もし、これが実現されたら、日本では大腸ガンで亡くなる人は皆無になるのではないかと言えるほど、内視鏡検査の効果は高いものです。
しかしながら、内視鏡検査医の絶対数は足りません。圧倒的に足りないのです。
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