私は、大腸内視鏡の専門家ですが、それでも年間2000人程度しか診ることができません。検診などは、一人の力ではどうしようもありません。
全国に、便潜血検査で陽性になった人がどのくらいいるかというと、毎年50万人にのぼります。私一人で見ることができるのは、そのうちわずか0.4%にすぎません。
「苦痛のない検査法をもっと広めないと・・・・・」というのが私の次の目標です。
新しい専門家を作るために教育する。完全無痛のやり方で50人の専門家を育てることができれば、年間10万人は検査できる。それは、全国の便潜血検査の陽性者の2割に及ぶわけで、このくらいになれば、統計的に有意の差が出るくらい大腸ガンの死亡者を減らすことができるかもしれません。
しかし、大腸内視鏡の専門医を育てるのも、簡単なことではありません。
昔、私がまだ大学病院にいて大腸内視鏡を勉強中だった頃、あちこちの有名な先生のところへ見学に行っていました。
大腸内視鏡の技法にはたくさんのテクニックがあって、それぞれ名前が付けられています。ある有名な先生のところに見学に行ったときのことです。
その先生が、挿入の困難なところにさしかかり、しばらく苦労したあと、あるテクニックを用いて通過しました。私は検査後、「どうしてあの時、そのテクニックを使ったのですか?」と聞いたところ、その先生は「それは3000件やった私の経験による勘だよ」と言ったのです。
理解には二つのレベルがあります。「自分がわかるレベル」と「人に教えることができるレベル」の二つです。別な言い方をすれば、「なんとなくわかっているレベル」と、「はっきり言語化できるレベル」ということになります。
先の先生の言葉を聞いたとき、私は「ああ、この先生はまだはっきりとはわかっていないんだな」と思いました。はっきりと自分で理解して、それを他人に伝えることができるようになったとき、初めて他の人に教えられるようになります。
私はそれから、自分でできるようになるだけでなく、他人に教えられるレベルになろうと心懸け、努力してきたつもりです。
従来、大腸内視鏡の挿入法は職人芸にようなもので千差万別だったのですが、そのままでは普及しないので、誰でもできるようマニュアル化することに腐心してきました。
そうしてできあがったのが、ワンパターン・メソッドです。数あるテクニックのうち、挿入部位ごとに一番有効な方法を選んで組み合わせたものです。
このメソッドを完成させたおかげで、人に教えるのが簡単になっただけでなく、自分自身も検査が楽になりました。
ワンパターン・メソッドは、水浸法だけではく、空気法でも使えます。
私は、これまでコロンモデル(大腸のモデル)を使って、ワンパターン・メソッドを多くの医師に教えてきました。このメソッドを使えば、誰でも100例以内で大腸内視鏡検査がマスターできると信じています。
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