便秘で不快なとき、市販の便秘薬を使う人は少なくありません。便秘薬は誰でも処方箋なしで買えますし、安全だろうと思われています。本当にそうなのでしょうか?
私たち専門医も、患者さんを診察した後、しばしば便秘薬を処方します。
実は、専門医が処方する便秘薬と、どこでも手軽に買える市販の便秘薬の成分はほとんど変わらないのですが、医師は患者さんの便秘状態を的確に把握したうえで、適切な指示とともに処方をしています。
けれども、自分で市販の便秘薬を買って日常的に飲む人は、やがて、定められた量をはるかにオーバーした大量の便秘薬を平気で飲むようになってしまいます。医師から処方される薬より気軽に考える人が多いのですが、本当はもっと注意して使わないと危険なものなのです。
内服する下剤には、便のボリュームを多くして便を出させるタイプの「容量下剤」と大腸粘膜を刺激して運動をお起こさせる「刺激系下剤」の二つがあります。
便の量を増やすタイプというのは、大腸に便から水分を吸収させないタイプということです。そもそも、大腸というのは便から水分を吸収して便の量を少なくし、一定時間溜めておく便の貯蔵庫なわけですが、便から水分を吸収できなければ、便はいつまでも大きいままで、あとからあとから増えてくるので、排便せざるをえなくなるというわけです。
たとえば、下剤の中にマグネシウムのような電解質がたくさん含まれていて、浸透圧の関係で、大腸が便の水分を奪えなくしてしまうものなどがあります。効き方は穏やかですし、便はいつまでも水分を含んだままで柔らかいわけですが、逆にお腹が張ることがあり、あまり人気がありません。
市販されている便秘薬は、漢方を含めて、90%以上が大腸の腸管刺激剤です。困るのは、だんだん効かなくなることがあることです。最初は飲めばすぐに効いた刺激薬も、継続的に使用しているうちに、必ず”耐性”が生まれてだんだん刺激に慣れてしまいます。最初は効いていた便秘薬が効かなくなり、どんどん強い刺激を与えなければ便意を感じなくなってしまうのです。初めはときどき使っていたものだったのが、だんだん毎日使うようになり(習慣性)、そのうちに下剤がないと自力では出せなくなります(依存性)。
それで、ひどい場合には、一度に30錠、あるいは100錠という信じられないような量を飲んでいる人がいます。
飲む量があまりに増えてきて、怖くなってやっと医師のところへきます。
検査してみると、下剤の濫用によって、ひどい低カリウム血症になっている人もいます。低カリウム血症についてはあとでご説明しますが、血中のカリウム濃度が低下しているため、さらに腸が動かなくなり、便秘をひどくします。
しかも、下剤の強い刺激に慣らされると、なかなか自分の自律神経の刺激では腸も動かなくなっています。薬の刺激をやめて、ゆっくり時間をかけて、自力で出す習慣を取り戻さなくてはなりません。
▼ 関連記事 こちらもご覧下さい